ALS嘱託殺人、謎残る医師2人の関係と役割 大久保なのに山本かたりSNS?報酬送金先も不可解

萎縮性側索硬化症(ALS)患者の嘱託殺人事件は、医師2人の逮捕から2週間が過ぎた。医師とみられる人物は、会員制交流サイト(SNS)などで「安楽死」を肯定する発言を繰り返していた。亡くなった女性とは事前に殺害計画を練り、金銭のやりとりもあったとされる。しかし事件の動機や、医師2人の関係と役割分担など謎も残る。  マスク姿の男らが、インターホンの画面に映し出された。昨年11月30日夕。ともに医師の大久保愉一(よしかず)容疑者(42)、山本直樹容疑者(43)が京都市中京区のマンション一室を訪れた。ALS患者の林優里(ゆり)さん=当時(51)=から「知人が来る」と聞かされていたヘルパーと対面し、訪問簿に偽名を書き込んだ。  林さんに促されてヘルパーが部屋を出ると、3人だけの「密室」になった。両容疑者は初対面の林さんに対し、鎮静作用のある薬物を胃ろうから大量投与したとみられる。約10分後に容疑者らが退出し、ヘルパーが室内をのぞくと、林さんは意識を失っていた。 ■ツイッターやりとり50回超え  さかのぼること11カ月前の2018年12月。ツイッター上で、匿名アカウントの大久保容疑者と林さんが接点を持った。  11年ごろにALSを発症し、ブログやツイッターで「ALS患者の挑戦 安楽死を認めて!」と訴えていた林さん。大久保容疑者が昨年1月に「(安楽死の)作業はシンプルです。訴追されないなら、お手伝いしたい」と誘うと、「うれしくて泣けてきました」と返答した。やりとりは事件の3週間前までに50回を超え、大久保容疑者は「安楽死研究会をつくって実務の検討をしたい。やりません?」などと呼び掛けていた。  この間の昨年9月、林さんは胃ろうからの栄養摂取を中止して安楽死することを主治医に提案して断られた、とツイッターで明かしている。「胃ろうを使わないというのは絶対可能と思ったんだけどな。まだ食い下がってみる」。投稿からは、当初から嘱託殺人を望んでいたわけではないことが読み取れる。 ■提示した口座は山本容疑者名義  大久保容疑者と林さんは事件の1カ月前から、第三者が閲覧できないツイッターのダイレクトメッセージ機能で、具体的な殺害計画の打ち合わせを始めたという。「お金を払ってでも死にたい」と言う林さんに、大久保容疑者は山本容疑者名義とみられる「ヤマモトナオキ」の口座番号を提示。11月21、23日に計130万円が振り込まれた。府警は事件の報酬とみているが、大久保容疑者の口座に移された形跡は見つかっていないという。  2医師の役割や関係性は未解明の部分が多い。別々の医大に通っていた20代の頃、学外の勉強会を通じて知り合ったとされるが、その後の親交ははっきりしない。大久保容疑者の妻によると近年、山本容疑者から薬を調達してほしいとメールが数回届くことがあったという。  林さんは事件の約1カ月前、主治医に「山本直樹医師宛ての紹介状を書いてほしい」と3回にわたって訴えている。実際にツイッターでやりとりしていたのは大久保容疑者だったため、府警は大久保容疑者が山本容疑者の名前をかたった可能性があるとみている。  林さんは生前、容体が安定しており、死期が迫っていたわけではなかった。捜査幹部は「安楽死ではなく明確な嘱託殺人事件だ。2人の役割分担や動機、事件に至る経過をしっかりと解明していく」と語った。