iPS心臓治療、厚労相が正式承認…阪大、今年度中にも移植

iPS細胞(人工多能性幹細胞)から作った心臓の筋肉のシートを重い心臓病患者に移植する大阪大の臨床研究計画について、加藤厚生労働相は実施を正式に認め、阪大に5日、通知した。阪大は今後、患者の選定を進め、今年度中にも移植を始める。

 iPS細胞を使う再生医療が認められたのは、理化学研究所などによる目の難病治療に続いて2例目。今回の心臓病治療は目の難病に比べて難易度が高く、iPS細胞の本格的な医療応用に向けた試金石となる。

 計画では、京都大が備蓄するiPS細胞の提供を受け、心筋細胞に変えて直径数センチ、厚さ約0・1ミリのシートに加工。血管が詰まるなどして心筋に十分な血液が届かず、心機能が低下した虚血性心筋症の患者3人(18~79歳)の心臓にシート2枚を貼り、安全性と有効性を1年間検証する。

 阪大はこれまでに、学内の有識者委員会と厚労省部会で審査を受け、当初計画より心臓のポンプ機能が悪化している重症患者に対象を絞ることなどを求められた。阪大が提出した修正計画を同部会が了承し、加藤厚労相が実施を認めた。

 臨床研究の責任者を務める澤芳樹・阪大教授(心臓血管外科)は、「ようやくスタート地点に立ったというのが正直な気持ち。成果を示し、多くの患者さんにこの治療法を早く届けたい」と話した。

 大阪大の心臓病治療の臨床研究について、阪大にiPS細胞を提供する京都大iPS細胞研究所の山中伸弥所長は読売新聞の取材に対し、「患者の安全性の確保が最優先事項だ」と指摘した。

 阪大によると、治療を受ける患者には1人につき、iPS細胞から作った心筋細胞を約1億個移植する予定だ。心筋細胞に確実に変化した細胞だけを使う計画だが、万一、心筋細胞になりきれずに移植されると、患者の体内で細胞ががんになる恐れがある。

 山中所長は阪大の臨床研究について「(がんになる)リスクは移植する細胞数に比例する。先行する目の難病治療などに比べ、阪大が使う細胞は圧倒的に多い」と課題を挙げた。

 その上で、「阪大とは細胞などのデータを共有し、対策を議論しており、今後も連携を続ける。サポートするだけではなく、問題があると感じれば批判的なことも直接申し上げるのが私たちの使命だ」と述べた。